やぶにらみ論法106 「プロ失格」   


やぶにらみ論法 「プロ失格」
  

 30代も前半の頃の話だが、「堀田君という男の作品を数年見ているが、写真で飯を食おうという気持ちはないのかね」とあるスタジオの社長が私の師匠に聞いたそうです。

 その師匠が「君にその気があるなら話してあげようか」というので、二つ返事でお願いしてしまった。

 紹介状を手に乃木坂にあったそのスタジオに行き社長にお目にかかった。緊張している私に社長は気さくにいろいろ話をしながら、「君、このスタジオの中の機材を自由に使っていいからこれを撮ってみてくれ」と一升瓶を持ってきた。キッコーマンという醤油瓶だった。これは俺の実力を試そうとしているんだなと直感した。

 そこで私は考えた。真横から水平に写せばピント合わせは楽だけど立体感の表現できないので、少し斜め上から写したいがそうすると被写界深度の関係でピントが届かないし、キーストン効果で先細りの画像になってしまって、ボリューム感が削がれて安定感の乏しい画像になってしまう。そう思ったのでアオリが効くキャビネの暗箱を借りて乾板で2枚写した。

 そこにコーヒーが運ばれてきた。すると社長は今度はローライフレックスを持ち出し、運ばれてきたコーヒーを写せという。腹の中でむっとしたが仕方がない実地試験だと自分に言い聞かせて写した。

 すると社長はスタッフにすぐ焼き付けるように指示をした。そして雑談をしている間に四つ切りに引き伸ばされた写真が45枚社長の手元に届いた。

 ピントも露出もしっかり合っているし写り映えがよい。当時は露出もピント合わせも、写真家の勘に頼っていた時代だ。腹の中で我ながらといった自信のある出来映えだ。

 その写真を手に取った社長は「これでは当社では使い物にならんね、この瓶に白く写っている丸いものは何なのかね、なに?スタジオ内のライトの映り込み?、そんなものは写さなくていい。このコーヒーは温かいのかね? 香りはいいのかね? そうしたことが感じられないのが残念だ。まあ最初はそんなもんだよ、もし、やる気があるのなら見習いとして2/3ヶ月やってみるかね?」と…。

 「この男、写真で飯を食っていこうという気があるか?」ということを「センスがいいから写真界で働かない手はない!」と激励されたかのように受け取り、「好きなことをやって給料をもらえるなら楽しかろう」という私の思い上がった気持ちをいっぺんに打ち砕いた瞬間である。

 「写真が好きだから、それで飯を食うプロになる!」という想いが違っていたのである。それで飯を食うためには、クライアントやアートディレクターの声が聞こえるような写真じゃないといけないのである。好きな写真を楽しむには、それを職業にしてはならない。

 秋山正太郎さんが「堀田君、我々プロがアマチュアに影響を与えることもあるけど僕は逆に、アマチュア恐るべし!と思っているよ、なぜなら、自分流を貫けるから真にその人の個性的作品が生まれると思っている」と話されたことを思い出し、「プロ失格」を自認し、下手でもいいアマチュアとして生涯、写真を楽しんでいこうと思っている。

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by yumehaitatu | 2018-03-03 17:00 | やぶにらみ | Comments(0)

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