露出とピント 渡辺澄晴   

確率は1/40
 私が写真を始めたころは、カメラ自体も今ほどの精密精巧なものでなく、まず写すことからして大変でした。ピント合わせは勿論のこと、それ以前に、撮影状況に応じた適正露出を決定しなければならない。そういった意味から、対象にカメラを向けてシャッターを切ったとしても、はたして写っているかどうか疑わしいといった時代でした。レンズの性能も悪く、逆光で撮るとフレァーが出たりして、明確に写らない。「必ず太陽を背にして撮る」というのが写真撮影の基本的な要件のひとつでした。
 カメラは蛇腹式から二眼レフ、レンジファインダーカメラ、そして一眼レフ時代になり、その一眼レフに合わせて超望遠レンズやズ-ムレンズが急速に開発され、スポーツ写真や動物写真に大きく貢献するようになりました。
 同時にレンズを近づけて撮る接写にも期待が持てるようになりましたが、この世界には露出とピントという難問が立ちはだかっていました。まだカメラには露出計がビルトインされてなく、小さな昆虫などの接写は露出倍数を計算しながら手探りで写していました。
 フイルムの感度も低く当時使えるカラ-フイルムは、コダック社のコダクロ-ムだけといってもよく、それもISO感度25でした。
 そのため一本のフイルムから、露出が適正なのは10枚程度。その中からピントのいいのは2・3点。それから構図のよいものとなると・・・つまり36枚から一点でも作品ができれば大成功という確率1/40の時代だったのです。
 そのころアサヒカメラで連載していた“小さな生命”という昆虫写真が朝日新聞社から写真集として発刊されました。著者は佐々木崑氏。いまでは何でもない花や昆虫の接写も、当時のフイルムやカメラレンズなどの性能で、よくもこんなしっかりしたピントで美しい発色の写真が撮れたものと感心していました。
 その佐々木先生との交流は、昆虫写真“小さな生命”が終わる頃でした。1ミリ程の蚤を3倍に拡大して接写した苦労話や、露出やピントの失敗話、撮影の手順などなど気さくに話をしてくれました。ちなみに3倍の拡大撮影は露出倍数が10倍かかります。つまり風景や人物などのときより10倍余分に露出が必要になるのです。しかも被写界深度は非常に浅く、まして動く昆虫のピント合わせは至難の業でした。
 その昆虫写真の先駆者佐々木先生は、今年の4月はじめに他界されました。一昨年米寿のお祝いに都合が悪く出席できなかったお詫びの電話をしたのが最後でした。心から先生のご冥福をお祈り申しあげます。
<作例写真は「イトトンボ」の目の部分を3倍に拡大して撮りました。>
露出とピント 渡辺澄晴_f0018492_1122717.jpg

by yumehaitatu | 2009-05-03 10:59 | 写真雑学 | Comments(0)

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