写真雑学34 フィルムの電気 渡邊澄晴   

「フイルムの静電気」   
 アメリカの代表的な企業、イーストマンコダック社がデジタルへの対応が遅れ業績が低迷、破産法の適用を申請する可能性があると報じられました。
 友人からの今年の年賀状に、「ついにフイルムに別れを告げ、デジタルに転向しました。」「フイルム時代の暗室は今は物置・・」「パソコンを勉強中」など書かれたものが複数ありました。ユーザーがこんな状態だから、フイルムの使用が激減するのも当然です。
コダック社との確執
 この事件は、東京オリンピックを2年後に控えた1962年の冬で、私がニューヨークに赴任した年でした。乾燥している冬の季節には、フイルムを巻き上げるとカメラのプレッシャープレート(圧板)と、フイルムとの摩擦により静電気が発生していました。TRI-X ISO400の高感度フイルムはこの静電気のため画面の中にミシンの目のように小さな黒点が出るのです。この高感度フイルムはプロカメラマンの常用品だったから事は重大でした。
 当然コダック社では、この静電気防止の対策を考えていました。ところがその対策が裏目に出てしまったのです。静電気防止をした新しいTRI-Xを使ってみると、モータードライブが通常に作動しなくなくなったのです。原因はフイルムのベース面に静電気防止の液体が塗られていて、それがカメラのプレッシャープレイに貼りつきフイルムがスムーズに移動いないのです。
問い合わせても返事なし
 このことをコダック社に問い合わせたが、返事なし。カメラマン側からは「TRI-Xが使えないならモータードライブは使わない」と苦情頻繁。たまりかね、関係者を呼んで「原因はフイルムあり」とデモンストレーションを試みることにしました。
 「モータードライブはTRI-X以外のフイルムなら正常に作動する。」「以前のTRI-Xは正常に作動していたのに・・今・・なぜ・・」関係者の前で各種のフイルムを装填して説明しました。デモンストレーションは成功。カメラの責任ではないと納得した関係者は、今度は矛先をコダック社に向け、「モータードライブに使えないフイルムなら使わない」と在庫のフイルムをコダック社に返品したのです。
情報を共有
 数日後、コダック本社から技術部長が新しいTRI-Xを持ってオフィスに説明に来られました。そして「完璧ではないがこのフイルムなら・・」と新しいフイルムを置いていかれました。モータードライブは以前のようにスムーズに作動するようになりましたが、静電気はやはり冬の乾燥期には発生しました。
 スピグラから35ミリカメラに変えた日本でも、この静電気が問題になっていました。当時はISO 400の高感度フイルムはTRI-Xだけだったので、カメラメーカー、コダック社、ユーザーの3者がこの静電気の情報を共有して発生防止対策を講じるようになりました。
 コダックTRI-X ISO400の静電気! 50年前の懐かしい思い出です。
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by yumehaitatu | 2012-02-05 09:40 | 写真雑学 | Comments(0)

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